【令和の争点】子供を育む 母親孤立、迷う「もう一人」

【令和の争点】子供を育む 母親孤立、迷う「もう一人」 イメージ

東京都内の主婦、田中舞子さん(34)=仮名=は、一人娘が1歳のとき、泣きやまないことにいらだって思わず顔をたたいてしまったことに、今も罪悪感を抱いている。
 
 夫(34)の転勤で仙台から東京に引っ越し、長女を出産した。初めての育児なのに、仕事が忙しい夫は帰りが遅く、独りで子育てをする毎日。保育園に申し込んだが、「専業主婦」だからか、案の定“落選”。どうしたらいいか、悩む日が続いた。
 
 ベビーカーで外出したとき、娘が泣き出すと刺すような視線を感じたこともあった。帰省で娘を抱いて新幹線に乗ると「うるさい」と座席を後ろから蹴られた。
 
 「しんどい。死にたい」。両親も夫の両親も遠く離れており、周囲に相談できる人はいない。寝不足で心身ともに追い詰められ、最愛の娘に手を上げてしまった。思いあまって夫に打ち明けたが「大丈夫だって」と言うばかり。辛さを共有してもらえず絶望感だけが募った。
 
 いま、娘は8歳になり、元気に小学校へ通っている。だが、当時の記憶はぬぐい去ることができない。2人目を望む気持ちもあるものの、かつての辛さをまた繰り返すと思うと、踏み切れない。痛ましい虐待事件のニュースを見るたび「一歩間違えば、自分が同じような状態に陥っていた」と思う。
 
× × ×
 
 1・57ショック−。平成元年、1人の女性が生涯に産む子供の数に当たる合計特殊出生率が戦後最低となり、社会に衝撃が広がった。あれから30年あまり。令和の日本で少子化問題は改善されるどころか、むしろ深刻化している。出生率はさらに落ち込み、平成17年には1・26に。その後、やや回復基調となったものの、それでも30年の段階で1・42にとどまっている。
 
 少子化は先進国共通の課題だ。フランスやスウェーデンではかつて、出生率が1・5〜1・6台まで低下。その後、保育の充実や出産後の就労をしやすくする政策転換が進み、2000年代には2・0前後まで回復した。
 
 夫婦と子供だけの核家族が当たり前になり、親や親族に支えられる子育てが難しくなった日本社会。孤立感を深めて思い詰める母親の悩みが消える気配はない。
 
 参院選を前に、政府は幼保無償化や低所得世帯の大学無償化を打ち出した。与野党はこぞって子育て支援の充実を訴える。ただ、田中さんの心には響かない。夫婦での子育て分担が当たり前という風潮はあるが、やはり女性が多くを担っているように思えるからだ。
 
 厚生労働省の平成30年度雇用均等基本調査(速報値)によると、男性の育児休業取得率はわずか6・16%だ。「子ども手当や子連れ出勤などは母親の負担が解決されるものではない。子育てもろくにしたことのない男性政治家たちが的外れな議論をしている。日本は子育てに厳しい国だと思う」。そう話す田中さんの「心の支え」は、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)だったという。
 
 同じような悩みを抱える子育て中の母親たちの“つぶやき”を見ると、「苦しいのは私ひとりじゃない」と思えた。痛みを分かち合えるのは夫でも親族でもなく、実際に会ったこともない人たちの声だった。
 
× × ×
 
 「男女ともに安定した雇用がないことが、少子化の大きな要因だ」。元横浜市副市長で、少子化問題を研究する前田正子・甲南大教授は、こう指摘する。
 
 子育て世代の30〜40代は、バブル崩壊以降の平成5〜16年ごろに高校や大学を卒業した、いわゆる「就職氷河期世代」。正社員ではない非正規雇用者も多い。
 
 総務省によると、元年には817万人だった非正規雇用者は、30年には雇用者全体の37・9%を占める2120万人に。このうち年収100万円未満の低所得者は男性が29・0%、女性では44・1%に上る。
 
 経済的な不安から結婚に踏み切れず、結婚しても満足な子育て環境がなく出産をためらう−。そんな悪循環が生まれているのではないか。内閣府が6月に公表した20〜40代の未婚男女を対象にした意識調査では、結婚後の働き方について6割が「夫婦共働き」とし、その理由に57・8%が「経済的に必要」を挙げた。
 
 前田教授は「子供が減っているのに、社会の空気は子育てに冷たい。日本の資源は人材しかない。まずは安定した職業に就けるよう国を挙げて取り組むべきだ」と強調する。
 
 政府は、令和7年度までに子供がほしい人々の希望がすべてかなった場合の「希望出生率」を1・8とすることを目標に掲げる。このまま国が縮むのか、踏みとどまるのか。もはや空理空論に費やす時間はない。(大渡美咲)
 
 
参考:https://news.goo.ne.jp/article/sankei/politics/sankei-plt1907050016.html

お役立ち情報の一覧へ